教養択一試験で得点率を上げる方法

 公務員試験に挑戦するにあたり、まず最初に気になるのが択一試験についてでしょう。

 

・勉強方法は?
・難易度はどれくらい?
・どんな内容なの?
・勉強時間はどれくらい必要なの? ・・・などなど。

 

 数ヶ月間にも及ぶ公務員試験の中で、教養択一試験は最初の壁でもあり、そのくせ最終的には面接試験と比べてさほど重要視される訳でもない(例えば得点換算比率が、択一試験:小論文:面接=3:1:6となるように)、言ってみれば「最低限越えてほしいハードル」という位置付けです。しかしその範囲は膨大で科目も多岐にわたるため、一体どこから手をつければ良いのか分からないという方、あるいはどれくらい勉強すれば合格ラインに届くのか全く見当がつかないという方も多いと思います。

 また、公務員は仕事上、根拠法令や大量の行政文書を取扱うことが多いため、試験もやや文系寄りな出題傾向にあり、法学部出身者の方が有利だとか、理系学部出身者には取っ掛かりにくいとかとも言われています。

 

 しかし前述のとおり、択一試験は「最低限超えてほしいハードル」。出題者側も、文系理系問わず中学高校レベルの知識で合格できるように問題設計しています。ただし、その出題傾向や出題形式には特徴があるため、コツを掴んでいるかどうかで合否を大きく左右します。そのため、何年も一次試験でつまずく受験生がいる一方で、必要最小限の時間でいくつもの合格を勝ち取ってくる人もいます。

 

 今回は、私が「生粋の理系人間でありながら」「仕事と育児をしながら」「1日2時間程度の勉強で」「30歳の時も35歳の時も」受験した全ての自治体で択一試験を合格できた秘訣をお話しします。

 

捨てても良い科目・捨ててはいけない科目

 公務員試験の教養試験(択一式)の合格ボーダーラインは、6割〜7割程度だと言われています。出題数は40問程度の自治体が多いですが、その内少なくとも12問は落としても大丈夫ということです。民間企業から公務員への転職を考えている方で、特に働きながら受験勉強を進める場合は、まずこのことを考慮して要領よく勉強を進める必要があります。

 

 一般的な択一式試験の科目と出題数を例示してみます。

 

(全40問の場合の一例)
◆一般知識(20問)
【人文科学】14問
・政治  1問
・法律  2問
・経済  2問
・社会  2問
・地理  2問
・日本史 2問
・世界史 2問
・思想  1問
【自然科学】6問
・数学  1問
・物理  1問
・化学  1問
・生物  2問
・地学  1問
◆一般知能(20問)
【文章理解】7問
・英文  3問
・現代文 3問
・古文  1問
【判断推理】7問
数的推理】5問
【資料解釈】1問

 

 この中で12問落としても良いとしたら、あなたならどの科目を捨てますか?

 

 私は生粋の理系人間でしたので、法律、経済、日本史、世界史、古文を捨てました。それだけでもだいぶ勉強量を減らすことができます。文系出身の方は、真っ先に数学や物理を捨てるかもしれません。もちろんそれでもOKです。
 高校の教科書を思い出してみて、あの膨大な範囲からたったの1〜2問しか出題されないことを考えれば、その科目に充てる時間を全て判断推理や数的推理の問題演習につぎ込んだ方がはるかに効率的です。ちなみに私の場合、勉強時間のみならず本番の試験時間もそこに充てることはせず、短縮のために前述の捨てる科目については「全て4」をマークして、問題文も選択肢も読まずにすっ飛ばしました。

 

 逆に、苦手であったとしても捨てるべきではない科目もあります。それは、一般知能問題(文章理解、判断推理、数的推理、資料解釈)です。理由は、知能問題は知識問題と比較して、問題演習を繰り返すことで格段に得点しやすくなるからです。一般知識問題(人文科学、自然科学)については知らなければ解けない問題が多いため、「参考書などで知識を習得する時間」と「問題演習をこなす時間」の両方が必要です。しかし、一般知能問題はひたすら問題演習を繰り返すのみで得点率が上がります。
 一方で、判断推理や数的推理を苦手とする受験生は多いです。従って、問題演習を繰り返してここを得点源とすることで、周囲との差をつける大きな武器になります。

 

問題集の選び方・使い方

 教養択一試験は、多くの自治体で約40問を90分程度で解きます。分からない問題に何分も費やす暇はなく、圧倒的に時間が足りない受験生が多いです。私が試験本番で「苦手な日本史や世界史などは捨てて、問題すら読まずに『全て4』をマークしてすっ飛ばした」という理由はこれです。じっくり読んでも正解できるか分からない苦手科目に何分も使うより、その時間を、計算すれば正解が出せる判断推理や数的推理に使う方がよっぽど効果的だと判断したためです。

 

 よく言われることですが、問題集は何冊も手をつけるのではなく、1冊を何度も繰り返し解いた方が効果的です。例えば教養試験なら、実務教育出版の『地方上級・教養試験 過去問500』を私は愛用しました。


 時間が十分にあるなら、判断推理で1冊、憲法で1冊、・・・というように科目ごとに1冊ずつ用意して全てを解くのも良いですが、間違っても「苦手だから判断推理の問題集を違う出版社で2冊買っておこう」などということはしないようにしてください。それならどちらか1冊を2回解いた方がはるかに良いです。どの出版社も、この1冊で十分まかなえる!という珠玉の1冊を販売しています。あれこれ手をつけるよりもその1冊をマスターすることの方が、短時間で合格点に近づきます。

 

 問題集の使い方はシンプルです。
 まず捨てる科目は無視して、それ以外の分野の問題を全て1周解きます。これが一番時間がかかりますが、飛ばさずに全問解きます。5分考えてもやり方が分からなければ、さっさと解答を確認して次の問題に進みます。数をこなすことが大切だからです。間違えた問題や分からなかった問題には✖️印をつけておきます。2周目は、この✖️印をつけた問題だけ解きます。また正解できなかったら、2個目の✖️をつけておきます。3周目は、2個の✖️が付いている問題だけを解きます。3周目は問題数も少なくなっているので、終わるのもだいぶ早くなっています。こうすることで、知識や学力の穴を埋め、ムラをなくしていきます。3周目が終わる頃には、1周目の時と比べてかなり力がついてきています。

 

 いきなり問題集をやるよりも、まずは参考書を読んで知識を蓄えてからの方が良いのでは?というご質問をよくいただきます。これに対する私の答えは「NO」です。前述のとおり、公務員試験の択一試験には、独特の出題傾向があります。知識を蓄えることよりも、問題形式や傾向に慣れることの方が、早く合格点に近づけます。


 私の経験では、試しに初学の地方行政法憲法の分野で、参考書を全部読みきってから問題集を解いてみたこともありましたが、それでも結局ほとんどの問題が✖️でした。どうせほとんど間違えるのなら、いきなり問題を解いて全部間違えたって似たようなものです。むしろ、特に初学の分野でいきなり参考書をやみくもに読み始めるより、一度生の問題に触れてから参考書を読んだ方が、どこが重要かが見えやすくて効率的に参考書から知識を吸収することができます。

 

 また、参考書と問題集は別々に買った方が良いのか、1冊で問題集と参考書を兼ねているものの方が良いのか、というご質問もいただきます。個人的には、問題集は問題集のみのものを使う方が良いと思っています。参考書との一体型では、どうしても掲載できる問題数に限りがあります。一体型の前提は、「知識を蓄えてから確認の意味で問題を解く」という方針です。より効率的に合格点に達するには、「問題を解きまくって形式と傾向に慣れ、よく出るところの知識を補充する」という方法の方が時間短縮になります。


 ただし、これは好みや基礎学力の個人差などもあるので、自分が使いやすく最後までやり抜きやすいものを選択するのが良いと思います。

 

 問題集を解くにあたって、知識問題と知能問題では取り組む時の心構えが違います。

 

知識問題:よく出題される分野や言葉の確認
 問題演習を繰り返すことで、膨大な範囲の中から、よく出てくる分野やキーワードを探ります。たくさん解いていくうちに、公務員試験が好きそうなジャンルや言葉が分かってくるようになります。最初は全問間違えたっていいし、言葉の意味すら分からない状態で構いません。理系人間の私は、法律や政治に関する問題は最初は全然分からなかったし、全ての選択肢が正解っぽく見えていました。
 そんなド素人の状態でも、先に問題集を解き、その内容を参考書で確認する「逆引き」のやり方は有効だし効率的です。問題を間違えるたびにこれを繰り返していくと、1周解ききる頃には、「参考書のこのページは何回も開いたな。よく狙われる場所なんだな」というのがある程度掴めるようになります。

 

知能問題:とにかく数をこなす
 これのみです。判断推理、数的推理、文章理解、資料解釈、そのどれもが数をこなしただけ得点の上がる分野です。テクニックも身につきます。資料解釈も、「表やグラフを読み取るだけでしょ?」と舐めないで、たくさん問題を解いてください。たった3問程度ですが、解法を知っている人と知らない人で、途中計算にかかる時間が全く違います。英文読解もそうです。難しい文章は出ませんが、英単語慣れしているかどうかで読むスピードが全然違います。
 判断推理と数的推理は誰もが「大事」と思っているので皆さんそこそこ問題演習をするのですが、短期間の試験対策で効率的に合格するためにも、知能問題は文章読解と資料解釈までしっかり問題演習を繰り返して、「公務員試験慣れ」するのが一番の近道です。

 

全科目共通の「なんでもノート」を1冊作る

 これは私が実践していたもので、やってみて良かったのでご紹介します。
 参考書や問題集を進めていくうちに、「苦手なところや大事なところをノートにまとめたい」と考える方もいると思います。それは良いのですが、その際、科目ごとに分けるのか、あるいは知識系と知能系で分けるのか、など、ノートの整理に頭と時間を使うのはもったいないです。

 

 そこで、私はノートを1冊だけ用意して、科目も何も関係なく、ノートに書いておきたいと思ったことを思った順に書く「なんでもノート」を作成しました。問題集や参考書で気になった項目だけではなく、白地図をコピーしてそのノートに貼り付けて書き込んだり、模試で間違えた問題を書き加えたり、とにかく「なんでも」この1冊に集約して記録しました。「日付」「模試の名前」「科目」「問題集のページ数」なども書き、細胞の構造やら万有引力の公式やら諸外国の議院内閣制やら・・・とにかく「これは何度も見ないと覚えられないな」と思ったことはその都度日記帳のようにつらつらと書いていきました。そんなの全部書いてたらキリがないのでは?と最初は思っていましたが、やってみると意外とノート1冊に収まります。

 

 結果的に、これはとても役に立ちました。一度書いておくと、同じような問題で間違えた時に「これこの前ノートに書いたよな。でもそれだけじゃこの問題は解けなかったから、新しい情報も書き足しておこう」とアップデートできます。
また、試験当日、開始前や空き時間にサーッと確認するにはもってこいでした。なんせこのノートは、自分が今までつまずいてきた箇所がつまずいた順に書かれている、自分だけの「知識の穴集」になっているわけです。参考書はいくらまとまっていても、自分がもうとっくに覚えている知識も全て載っています。しかしこのノートは、自分がかつて知らなかったところ、何度も間違えて覚えるのに苦労したところだけが載っているのです。試験直前の短時間で総復習するには、これ以上最適なものはありません。

 

本番で解く順番を決めておく

 試験本番までに、何度か模試を受けた方が良いです。理由は二つです。一つは「場慣れ」のため、もう一つは「当日解く順番を決める」ためです。

 

 「場慣れ」のためにも、模試は自宅受験ではなく、どこかの受験会場に出向いて、他の受験生と一緒に受けた方が良いです。私は1回目の公務員試験挑戦(30歳)の時は、2月〜5月頃にかけて4回の模試を受験しました。周りは20代の若い人たちばかりでしたが、ここで場慣れできたことは本番でも生きたと思います。2回目の公務員試験(35歳)の時は、既に本物の公務員試験を受けていたので模試は受けませんでした。

 

 「当日解く順を決める」ためには、模試は会場受験が面倒であれば自宅受験でも良いですし、あるいは本屋で本番さながらの「公務員試験練習パック」のようなものを購入して、自分で時間を計って解いてみるのでも良いです。いずれにせよ、この「当日解く順を決める」という作業は、かなり念入りにやるべきです。これも合格を大きく左右します。

 

 前述の通り、択一式試験は問題数の割に時間が足りません。平均すると1問2〜3分程度でサクサク解いて次の問題に進む必要があります。とはいうものの、それはあくまでも平均であって、実際は知識問題なら30秒〜1分程度、知能問題なら下手したら5分くらいかかってしまう問題もあるかもしれません。

 実際に何回か解いてみると分かりますが、同じ問題数でも、先に知識問題を解くのか、それとも知能問題を解くのかによって、全体にかかる時間が全然違います。短時間でサクサク進む知識系を先に解いた方が合格点に達しやすい人もいれば、時間のかかる問題を先に解いた方が心理的に楽になるという人もいます。これは個人差が大きいです。自分がどの順番に解くのが最もやりやすく、時間配分がうまくいき、高得点を出しやすいのか。何度もシミュレーションして、当日までに作戦を立てておくべきです。
ちなみに私は、練習パックや模試を何度も解き、毎回解く順番を変えて試してみた結果、【一般知識→文章理解→資料解釈→数的推理・判断推理】の順が最も時間切れにならず、余裕を持って臨めました。

 

まとめ

 長くなりましたが、ここまで書いた内容をまとめると、

①捨てる科目を決める。知識問題の苦手な科目は大胆に切り捨てる。知能問題は捨ててはダメ。問題演習を繰り返せば必ず取れるので捨てたらもったいない。

②問題集は1冊を3周解く。知識問題は頻出箇所を探り、知能問題は数をこなすという意識で。

③ノートは科目もジャンルも関係なく1冊にまとめるのがオススメ。

④模試を活用して、当日どの順番で問題を解くか決めておく。

これらを実践することで、教養択一試験との相性が格段に上がります。
私はこうして、仕事をしながら、家事育児もしながら、1日2時間程度(平日も休日も)の勉強を数ヶ月やっただけでしたが、受験した全ての自治体で択一試験を突破できました。
35歳の時は、30歳の時に解いた問題集の✖️印がついているところだけを解いて、3戦3勝でした。それくらい、身につけると長持ちするテクニックで、いわゆる「受かる人はどこを受けても受かる」という体質になります。逆に、それくらい公務員試験の択一式問題は、形式や傾向が独特で、コツがいるということです。
民間企業から公務員への転職を考えている方の、一人でも多くの方のお役に立てば幸いです。